Mr.シャーデンフロイデ

_record.eh 第一作


いつも通りの、村の小さな教会の鐘が鳴る。小さな村の朝は平和である。平和、だった。 「…気高き古の悪魔が蘇り、誰かに憑き…汚れし村人の魂に救済を施すだろう…」 神官、この村では「プリースト」と呼ばれる聖職者が淡々と読み上げる横で、“救済”を施された者の双生は泣き崩れ、次期のプリースト候補である次期神官は神に祈りを捧げ、葬儀屋は屍に淡々とエンバーミングを施していた。悪魔のゲームは、まだ序章に過ぎず、人か悪魔、どちらかが滅ぶまで逃れられない運命だった。 ____ しばらくし、村の小さな教会では勇気ある者たちが会議に臨んでいた。悪魔は誰なのか。彼女を殺したのは誰なのか。 「…この村の誰かが、あの子をあんな目に…?」 震えた声で語りだす次期村長・マルス、その横では興味なさそうにしているセネリオが淡々と口を開いた。 「僕は悪魔だとか、ゲーム、といった物には興味ありません。早く終わらせましょう。」 その対角にいたシルヴァンが痺れを切らし怒ったように声を荒げた。 「興味ないとかじゃないだろ…っ!人死んでんだぞ!」 その隣ではいつものように怪しげに笑う葬儀屋、ヒューベルトが口を開いた。その笑い声は、いつもより震えているように見えた。 「…くくく…悪魔など非科学的でしょう。」 その言葉に苛立ったように舌打ちを一つしたフェリクスがヒューベルトを睨みつけ言葉を発した。 「なら誰がやったという。俺も悪魔なんぞ信じてない、が。この惨状をどう説明するつもりだ。」 眠たげに目を擦りめんどくさそうに語り出した神官・リンハルト。 「僕は身分的に悪魔がいるとしか言えないんだけど…とりあえずそれでいいでしょ…早くこの仕事辞めたいし…ねれるならそれで良いや。死は一瞬だから、痛くないでしょ…。」 そのセリフに焦ったように次期神官のフリージアが口を開いた。 「リンハルトさん…!?神官としてそのお言葉どうなんですか!?」 決意を決めたように、この村の騎士であるディミトリが口を開いた。 「皆安心してくれ。俺が皆を守る。」 その隣で隣町の傭兵・アイクが小さく頷き口を開いた。 「俺も看過できない。雇われた身として最善を尽くすつもりだ。」 その日の夜、村では疑心暗鬼の怪しみあいだった。 お前が悪魔だ、お前が悪魔だ、と。彼らは惑い、惑い吊り上げる死を選ばなければならなかった。 ___翌日。 「怒れる古の悪魔が、哀れなる騎士を救い…穢れし村人も残らず救済してみせるだろう。」 再び今日も村の神官・リンハルトが教会の前で淡々と読み上げていた時には。 騎士…つまりディミトリが悪魔との戦いで命を落とし、怒り狂いながら泣き叫ぶ歴戦の友・フェリクスと、辛そうに俯き涙を溢す騎士の兄貴分・シルヴァン。悔しさで歯を食いしばる傭兵・アイク。ディミトリの屍にエンバーミングを施す怪しい葬儀屋・ヒューベルト。清廉な思いで神に祈りを捧げる次期神官・フリージア。苦痛で顔を歪め涙を流す次期村長・マルス。 悪魔に憑かれた者以外は決意を固めるか、騎士の死に絶望するかだった。決意を固めた者はこう決めただろう。傲慢な“救済劇”をこの手で終わらせて見せ、死者への手向けとしよう、と。 __ 昨日と同じような会議にて、決意を決めたフェリクスが最初に口を開いた。 「夕刻までに俺たちは必ず、悪魔を吊るす。」 シルヴァンやアイクなど他の決意を固めた人々は頷き口を開く。 「あいつをしっかりと見れてやれなかった俺の責任だ。謝っても済まないだろう。」 アイクが悔しそうに、申し訳なさそうに口を開いた。その言葉を遮るように冷たく淡々と呟くセネリオ。 「…謝ったところで何にもなりません。どうせ此の儘皆々死んでしまうのでしょう。」 怯えたような表情で、震えた小声でフリージアが口を開いた。 「も、もう辞めてください…!こんな疑いあうなら…ぼ、僕が吊るされますからっ…!」 その言葉は彼らの耳には届いたが、彼らの心には届かなく、死体を間近で見ていたヒューベルトが、シルヴァンの手元を見て怪しげに笑い、尋問するように問いかけた。 「くく…シルヴァン殿。なぜ彼のチョーカーを、貴殿が?」 シルヴァンの背筋が凍り、全ての視線がシルヴァンに向いた。 「そ…それは…!ディミトリが…!」 そのような言い訳は疑心暗鬼に溺れた彼らには届かなく、禊ぎ合う死のブーセは彼に向いた。余裕ぶっていた皮は剥がれ、死の恐怖で顔が歪んだ。震える手で絞首台へ向かった。足は震え、絞首台に登りロープを首に掛け、死への切符が切られた。 これで正しかったのか?本当に違かったら、という不安と、ようやく悪魔を吊るした、という安心が彼らの頭にぐるぐると巡っていた。 ___ いつもの小さな村に響く夜明けの鐘が、沈黙を歌った。主の眠りを守るように。神官と共に命を落とした次期神官は十字架で神に祈るまま天へと導かれた。 淡々と呟く怠惰な神官の声と、子供のような純粋なで心情で祈りを捧げる清廉な次期神官の姿は棺桶でエンバーミングが施された後だった。_彼じゃない。悪魔が吊れたのなら平和が訪れる。一体、誰がこんな事を?どうして彼はチョーカーを持っていた?ミステリアスなその壁が思考回路を遮った。 ___またこの日が。この会議に嫌気が差す。だがこの救済劇に幕を下ろさなければと口を開いた。 「…どうして、2人同時に?」 そんな疑問を呟いても返答の声は聞こえなかった___はずだった。 ヒューベルトが自身の愛用している白手袋で顎に手を置きながらゆっくりと語り出した。 「くく…悪魔が吊るされたどころか、人が徐々に消えていくばかりですなぁ。」 不気味に、余裕な雰囲気で笑うヒューベルトに痺れをきらし、バン、と机を叩き立ち上がりフェリクスが声を荒らげた。 「ふざけるのも大概にしろ…!お前こそ、どう見たって悪魔だろう!」 彼には落ち着きというものがなかった。文句を言いながらも、彼は情に深い人間だったのは周知の事実と言っても過言でもない。冷たく淡々とセネリオが呟いた。 「なんて醜悪的で冒涜的…人間の嗜好ではないかと。」 その反対の言葉にヒューベルトは余裕そうに首を傾げ、くく、といつも通り不気味に笑った。 「そうですかな…私はただの葬儀屋、屍しか愛せないだけ。…そして私が愛でた彼らは皆“人”でしたよ。くくく…」 苦し紛れの弁明は、重ねることに疑いが積もっていくばかりだった。 余裕そうに絞首台に彼は登った。死を恐れないかのように。ロープを首にかけ、ゆっくりと見えている右目を瞑り、死への切符を切った。 ___ 夜の帷が降り、夜明けに繋がった。そして翌日には__ 「…あれ、アイクは…?」 マルスが不思議そうに首を傾げた。 「あの人の事です。どうせ寝ているのでしょう。」 ため息混じりに淡々とセネリオが呟いた。マルスは焦りか話を聞かず、「起こしに行ってくるね」、と会議場を出た。 ___マルスが出て数十分後、マルスが会議場に駆け込んできた。 「み、みんなっ…!あ…アイクがっ!」 マルスを先頭にフェリクス、セネリオが走り出し、村の門へ向かった。村の門の壁に寄りかかって暗い紅の血を流し倒れ込むアイクの姿が。セネリオが珍しく焦ったようにアイクの手元を包みこんだ。 「アイク…?」 セネリオの手がアイクの冷たくなった体温を感じ取り、思わず顔を歪めた。 「…そう、ですか…」 小さく哀れな声で呟き、彼の手を強く握りしめた。冷たくなった体温、剣を握ってる者特有の傷のある掌。自分の手で彼の手を握り締めた。ゆっくりと握りしめた手を離し、セネリオは手のひらが血まみれになろうとその手を拭わなかった。振り返り会議場に皆は戻った。 「…始めましょう。」 __会議は暗かった。セネリオが淡々と呟き、フェリクスが簡潔に離し、マルスが簡単にまとめるだけだった。 「…おい。」 フェリクスが小さくセネリオに問いかける。セネリオは「なんですか」、と軽くそちらを向いた。目は合わせなかったが。 「お前があの傭兵に思い入れがあったのは知っている。…が。」 「なぜそれまでは冷酷に接していた。突然態度が豹変するなんて、都合が良すぎるにも程があるぞ。」 「…それは。」 あの冷静なセネリオが言い淀んだ。 「…図星か。」 「…っ、違います。ただ、僕は…」 情けはかけない、というようにマルスが語り出した。 「…もう終わりだ、セネリオ。諦めてくれないか。」 マルスの言葉にびく、と反応し反論した。 「ですから、僕は…いえ、もう良いです。二対一。いくら発言しても動かないでしょう。」 読んでいた本をテーブルに置き、ゆっくりと歩き出した。絞首台へと登り、目を瞑り、天を仰ぎセネリオは小さく呟いた。 「僕も、あの人の所へ…」 そう呟き、彼は比較的、幸せそうに死を迎えた。 これにて、悪魔は成敗。半数以上がいなくなった村は静寂と荒廃だった。 「やっと…終わった、か。」 「ああ。」 2人は安堵しながら、どこか寂しげに微笑み、勝利の盃を交わした。 「…やっと、終わったね…」 「…長かったな。」 フェリクスとマルスが寂しげに呟き、ため息をついた。その時、月に反射され煌く金属の光が。フェリクスは立ち上がり、反射された剣をマルスの首元に突きつけた。 「…え?」 「…安らかに眠れ。」 剣は彼の喉を突き、鮮血が吹き出した。彼は誤った。選択を、人生を。 穢れし村人たちは悪魔により救済され、村は救われない。 ___そして、彼も。 傲慢なる救済劇は終劇。悪魔の力は強まり、彼は幻覚で紅い血の海に立つ自分、そして自分が殺めた彼らの亡骸。頭が割れるように痛く、幻覚の血の海に倒れ込んだ。そのまま彼は命を落とした。 ………………………………………………………………………………… 『また誰も救えないまま…。』 Mr.シャーデンフロイデ、これにて終演。
あとがき  短編を真面目に書いた記念日。Mr.シャーデンフロイデ。人狼ゲームがモチーフとなってます。誰も救われない鬱エンド。最初はアイクあたりが悪魔役にしようと思ってたけど残酷すぎてなぁ…と。 ちなみにフリージアくんは自分のオリキャラです。うちの子が可愛い。見た目も性格もインキャな控えめな子可愛いね。まぁ早速種明かし。 1 ディミトリの死について ディミトリとアイクは手分けして悪魔の存在を暴こうとしたところを悪魔に襲われて死んでしまってます。 2 ディミトリのチョーカーをシルヴァンが持ってたわけ 実はディミトリは死を覚悟してたんですよね。だから「これはお前に持っていてほしい」って言われたんです。 3 神官2人が死んだわけ 教会に住み込みの神官たちは占いで悪魔を特定したんですが、悪魔にやられてしまいました。 4 セネリオの反応 元々セネリオとアイクは仲がいいんですよね。友がなくなる恐怖を押し殺してましたが実際に死ぬと限界のようですね。 5 悪魔の正体 読んでもらったように正体はフェリクスだったんです。最後にフェリクスも倒れるのは村人が全員いなくなって悪魔の封印が解けて実体を持ち始め人間の体だと耐える事ができないんです。 ………………………… 我ながら死亡シーン作るの上手いな…サイコパスかな。